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千葉地方裁判所 平成元年(ワ)1278号 判決 1990年6月22日

原告 谷川寿光

被告 千葉県道路公社

右代表者理事長 成嶋茂廣

右訴訟代理人弁護士 吉原大吉

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告が昭和六三年一一月二七日、被告の管理する市川松戸有料道路一部区間を通行したことに基づく通行料金三〇円のうち、金二〇円を超える分(金一〇円)につき支払債務の存在しないことを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  被告は、原告に対し、請求の趣旨記載の通行料金のうち一〇円の支払債権を有すると主張し、その支払いを請求している。

2  しかし、右通行料金のうち二〇円を超える分について、原告にはその支払債務が存在しないので、その確認を求める。

二  請求の原因に対する認否

請求の原因1は認める。

三  抗弁

1  被告は、地方道路公社法に基づき千葉県が設立した地方道路公社であり、千葉県が開設した市川松戸有料道路(以下「本件有料道路」という。)について、道路整備特別措置法(以下「特別措置法」という。)二七条の三の規定により、通行料金の徴収を行うことができるものである。

2  本件有料道路においては、小型乗用自動車の通行料金は、一部区間において三〇円と定められている。

3  原告は、昭和六三年一一月二七日午後三時三〇分頃、本件有料道路の一部区間を小型乗用自動車で通行したが、原告は右通行料金のうち、二〇円を支払ったのみで残金一〇円を支払わない。

4  よって、被告は原告に対し、一〇円の通行料金債権を有する。

四  抗弁に対する認否

抗弁1ないし3は認める。

五  再抗弁

1  有料道路制度は、第二次大戦後の道路整備計画を進めるため、その財源に関する臨時措置法として昭和三一年に公布された特別措置法により導入されたものであるが、現在わが国は、他国に莫大な援助をするゆとりのある国であり、法の存在理由は失われている。

従って、一般有料道路、特に生活道路からの料金徴収は違法である。

2  道路整備事業費としては揮発油税を一リットルにつき四五円六〇銭を国庫に納入しているが、国は揮発油税を昭和六三年度においては二五パーセントしか道路整備特別会計に入れていない。さらに、道路利用者は、地方道路税を徴収され、消費税も付加されているのであって、利用者負担は極めて過重となっている。

3  財団法人高速道路調査会「有料道路ハンドブック」(昭和五七年)には、「建設費等を償還した後は無料解放するという大前堤に立っている」とあり、償還主義の原則が明記されているが、昭和四三年一〇月より料金徴収を開始した本件有料道路は、建設費が二八億六八〇〇万円であるのに、昭和六二年度の収入状況は六三億円にもなり、当然償還が終わっている状態である。

4  料金が公正妥当であるべきことは、すべての料金徴収に妥当する基本原則である。

本件有料道路は市川市若宮から松戸市松戸間の七・八キロメートルの道路であるのに、料金所は市川市若宮から松戸に向かって約二・八キロメートルの位置に設置されているのみであるから、松戸市内の通行車は本件有料道路の約五キロメートルの区間では無料で利用できる状態にある。故に、料金所を通過する残余の道路利用者のみが、全道路の建設費や修繕費を負担しているという不合理が存する。

当該道路への出入口すべてに料金所を設置し、そこを通過しなければ通行できない状態にしない限り、有料制度が公正妥当とはいえず、被告は原告に対し、通行料金債権を有しない。

5  特別措置法三条一項二号は、「通常他に道路の通行又は利用の方法があって、当該道路の通行又は利用が余儀なくされるものでないこと」という条件に該当する場合のみ、当該道路を新設または改築して、料金を徴収することができると規定する。

京葉道路の原木インターを出て松戸に行く場合、若宮三丁目から本件有料道路を利用すると極めて近く、他の道路で松戸に行く場合は大きく迂回せざるを得ないから、事実上、本件有料道路を利用せざるを得ない。この点においても本件有料道路の料金徴収は違法である。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1ないし3は争う。原告の主張自体からしても、再抗弁1、2は立法と国の政策の問題であり、同3は、原告の主張するような文書の記載があったとしても、本件において具体的に被告の請求権がない理由とはならないから、再抗弁1ないし3は、主張自体失当である。

2  再抗弁4のうち、本件有料道路の料金所が一か所であることは認めるが、その余は争う。通行料金制度は、特別措置法一一条の基準の下に、建設大臣の許可を受けて決定され、この料金の額と徴収期間は公示される。このように、料金制度は立法と政策の問題であって、原告の主張は失当である。

3  再抗弁5のうち、本件道路を利用しない場合に、迂回路があることは認めるが、その余は争う。原告は、他の道路を利用する場合、大きく迂回せざるを得ないので、特別措置法三条一項二号の要件を満たさないと主張するが、原告独自の見解である。

第二証拠関係《省略》

理由

一  請求の原因1及び抗弁1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の再抗弁について順次検討する。

1  再抗弁1、2について

原告の右各主張は、道路整備に関する財源をどのように調達すべきかという国の立法政策の当否を問題とするにすぎず、特別措置法が現に存在し、同法に基づいて行う被告の料金徴収が違法となるものではない。

従って、原告の右各主張はいずれも理由がない。

2  再抗弁3について

特別措置法施行令四条は、都道府県及び市町村である道路管理者が新設、改築した道路の料金の額について、「当該道路の料金徴収総額が当該道路の新設又は改築に要する費用の財源に充てるための地方債又は一時借入金の元本の償還及び利息の支払に要する費用の合算額に見合う額となるようにしなければならない。ただし、当該道路の料金徴収期間内における維持及び修繕に要する費用並びに料金徴収の事務取扱費を料金をもって支弁することは妨げない。」と規定しているのであるから、建設費よりも収入額が多額であるからといって、料金徴収が直ちに違法となるものではない。

従って、原告の右主張も理由がない。

3  再抗弁4について

料金所をいかなる場所に何か所設置するかは、料金所を設置して料金を徴することに要する費用、当該通行料金の額、当該有料道路の距離、交通量その他諸般の事情を総合勘案して決定すべきものであり、当該有料道路の出入口のすべてに料金所を設置しないからといって、直ちに当該道路の料金の徴収自体が違法となるものではない。

従って、原告の右主張も理由がない。

4  再抗弁5について

特別措置法八条は、都道府県及び市町村である道路管理者は、当該道路が同法三条一項各号に規定する条件に該当する場合に限り、有料道路を新設、改築できると定め、同法三条一項二号は、「通常他に道路の通行又は利用の方法があって、当該道路の通行又は利用が余儀なくされるものでないこと」と定めるものであるが、《証拠省略》によると本件有料道路を通行又は利用しない場合に、他の通行又は利用の方法があることは明らかである(なお、このことは原告の自認するところでもある。)から、本件有料道路が同号の要件に該当しないとの主張は理由がない。

原告のこの点に関する主張は要するに、本件有料道路を通行、利用した方が、他の道路を通行、利用するよりも利便が大きいので、本件有料道路を通行、利用せざるを得ないというものであるが、特別措置法一一条二項が、道路管理者の新設する有料道路等の料金の額について、当該道路の通行、利用により通常受ける利益の限度をこえないものでなければならないと規定していることに照らしても、有料道路の通行、利用が従来の道路の通行、利用よりも利便の大きいものであることは、法が当然に予定しているところである。この点からしても原告の右主張は理由がない。

5  以上、原告の主張する再抗弁はいずれも理由がなく、当事者間に争いのない抗弁事実からすれば、原告が昭和六三年一一月二七日、被告の管理する市川松戸有料道路一部区間を通行したことに基づく通行料金三〇円のうち、原告が支払った二〇円を超える分(一〇円)の支払債務が存在しているものといわなければならない。

三  よって、原告の請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清野寛甫 裁判官 丸山昌一 内山梨枝子)

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